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那覇地方裁判所コザ支部 昭和50年(ワ)128号 判決 1977年1月25日

原告

新垣良樽

被告

城間幸盛

ほか一名

主文

1  被告らは、連帯して、原告に対し、金五三三万七、六七〇円および内金四八三万七、六七〇円に対する昭和四八年一月一日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。

4  この判決の第1項は、かりに執行することができる。

事実

第一当事者の申立

原告

1  被告らは、各自原告に対し、金九一九万一、四四一円および内金八五一万〇、五九四円に対する昭和四八年一月一日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言。

被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  (事故の発生)

被告城間幸盛(以下「被告城間」という。)は、昭和四七年一二月三一日午後一一時五五分頃、自動車(五B五四一一六号。以下「加害車」という。)を運転して、中頭郡中城村字当間四三五番地前国道一三号線路上を進行中、前方道路を横切り終つて、約九米コザ方面に向つて該道路沿いに歩行中の原告を後方より加害車で追突しよつて、原告に対し、右前頭部ないし側頭部擦過傷、頭頂部挫傷、右大腿部、左前胸部、左肩打撲傷、鞭打ち損傷の傷害を負わせた。

2  (被告らの責任)

被告城間幸盛

飲酒、スピード違反、前方不注視等の過失により、本件事故を惹起したものであるから、民法第七〇九条により損害賠償責任を負う。

被告中頭トヨタ自動車株式会社

加害車の所有で、本件事故当時加害車を自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法第三条により損害賠償責任を負う。

3  (損害)

(一) 本件事故によつて生じた原告の損害は、つぎのとおりである。

(1) 治療費 金一二万三、五七〇円

野原医院

(2) 付添看護費 金六万二、〇〇〇円

一日二、〇〇〇円の三一日分

(3) 雑費 金九、三〇〇円

一日三〇〇円の三一日分

(4) 逸失利益 金六三一万五、七二四円

原告は、本件事故当時石工および農業を営み、一月平均金八万九、六〇〇円の収入を得ていたが、本件事故により、自賠責後遺障害等級表第七級に該当する後遺障害を有し、石工の仕事に復することは不可能となり、時々農業の手伝いをする位である。従つて、原告の労働能力喪失率を六〇パーセント、継続期間八年間として、ホフマン方式により中間利息を控除した現価である。

(5) 慰藉料 金二五〇万円

原告の収入によつて家族七名の生計を維持して来たが、本件事故により、後遺症を残す程の重傷を負い、そのため著しい労働能力の低下による生活苦と、精神障害、特に頭痛とけんぼう症にさいなまれ、多大の精神的苦痛を受けた。

(6) 弁護料 金六八万〇、八四七円

原告は、被告らが本件事故による損害金を任意に支払わないため、やむなく弁護士にその取立を委任し、その報酬として表記金額を支払うことを約した。

(二) 損害の填補 金五〇万円

原告は、自賠責保険から保険金五〇万円の支払いを受けた。

(三) よつて、原告は、被告等各自に対し、未だ填補されない損害金九一九万一、四四一円および前記弁護料金六八万〇、八四七円を除く内金八五一万〇、五九四円に対する本件事故の日の翌日である昭和四八年一月一日から支払いずみまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告らの請求原因に対する答弁

被告城間幸盛

1  請求原因1(事故の発生)の事実中、傷害の部位程度を否認し、その余は認める。

2  同2(被告らの責任)の事実を否認する。

3  同3(損害)の事実中、(二)を認め、(一)は不知。

被告中頭トヨタ自動車株式会社

1  請求原因1(事故の発生)の事実中、原告が被害者であるという点および傷害の部位、程度は不知、その余は認める。

2  同2(被告らの責任)の事実を否認する。ただし、被告中頭トヨタ自動車株式会社(以下「被告会社」という。)が、加害車の所有者であるとの点は認める。

3  同3(損害)の事実中、(二)を認め、(一)は不知。

三  被告らの主張

かりに、被告らが、本件損害賠償義務を負うとしても、本件事故発生場所は、平坦で直線道路であること、その時刻は、午後一一時五五分で闇夜であつたことから、原告は加害車のサーチライトで、加害車が後方より接近して来ることを明らかに認識できる状況にあつた。それにも拘らず、原告は、加害車が約一三、五メートルの距離まで接近した時点で道路中央まで進出している。このような場合、原告としては、一時横断を中止して、加害車を通過させて後に横断を開始すべき注意義務があるのに、これを怠つて、漫然と横断を継続した過失により、本件事故に遭遇したものであるから、五対五の割合で過失相殺されるべきである。

四  原告の被告らの主張に対する答弁

被告らの主張事実を争う。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  (事故の発生)

被告城間が、昭和四七年一二月三一日午後一一時五五分頃、加害車を運転して、中頭郡中城村字当間四三五番地前国道一三号線路上を進行中、前方道路を横切り、該道路の右端に沿つて、コザ方面向け歩行中の原告(ただし被告会社においては、本件事故による被害者が原告であることを「不知」と述べるが、成立に争いがない甲第七号証および原告本人尋問の結果を総合してこれを認めることができる、)を加害車で追突したことは当事者間に争いがなく、右事故により、原告は、右前頭部ないし側頭部擦過傷、頭頂部挫傷、右大腿部、左前胸部、左肩打撲傷、鞭打ち損傷の傷害を負つた事実は、成立に争いがない甲第一、二号証を総合してこれを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二  (被告らの責任)

被告城間について

前記認定の事実および成立に争いがない甲第六、七号証(ただし甲第六号証中後記信用しない部分を除く。)証人安和良信の証言と原告本人尋問の結果を総合すると、本件事故は、被告城間が、加害車を運転して、本件事故現場に差しかかつた際、前方注視を怠つたため、原告が、進路前方を殆んど横断し終つて、加害車と同一方向に該道路の右寄りを歩行中に、後方より加害車を原告に追突したものであることが認められ、右認定に反する甲第六号証中の記載部分および被告城間の本人尋問の結果は信用しない。右事実によれば、本件事故は、被告城間の過失により発生したものというべく、同被告は、民法第七〇九条により不法行為者として、本件損害賠償責任を負わなければならない。

被告会社について

加害車が、本件事故当時、被告会社の所有であつたことは当事者間に争いがなく、証人伊計昭直の証言(ただし後記信用しない部分を除く。)および被告城間本人の尋問結果を総合すると、被告会社は、自動車の修理、販売を営業とし、顧客より下取りした中古車は、更に修理、塗装等を施したうえ販売するシステムをとつていたこと、被告城間は、本件事故前四、五年前から被告会社に雇用され、本件事故当時、塗装工としてその作業に従事し、かつ、入社当初より自動車の運転免許を有していたこと、被告会社においては、下取りした中古車の鍵は、事務所の壁に掛け、その保管責任者(課長)を指定し、保管責任者の許可がない限り、従業員が、その鍵を持ち出して、中古車を運転することを禁じてはいたが、これは、一応の立前であつて、現実には、特別の施錠もなく、修理工や塗装工等が、作業のため中古車を構内で運転移動したり、塗料を購入するため随時その鍵を持ち出し、これを使用して、構外までも運転して用足しをしていたこと、被告城間は、本件事故当日は大晦日であつたので、仕事を終えて帰宅する際、明元日は、加害車を使用して所用を済まそうと考え、何時ものとおり、壁に掛けられていた加害車の鍵を持ち出し、これを使用して加害車を運行中、本件事故を惹起したものであることなど、以上の事実を認定することができ、右認定に反する証人伊計昭直の証言の一部は信用しない。

右事実によると、本件事故当時の加害車の運行は、主観的具体的には、被告城間のための運行であるが、被告城間が、事故当時被告会社の従業員であり、しかも、平常業務の中に自動車の運転もその附随的業務の一つとなつていたことに着目すると、このような地位にある者が、一時的に加害車を持ち出して運行することは、いまだ被告会社の有する一般的な加害車に対する運行の利益および支配を排除する程度のものとは到底認め難いので、被告会社は、その間依然として、加害車を自己のため運行の用に供する者としての地位を失うことなく、これを持ち続けるものといわなければならない。

従つて、被告会社は、被告城間が、加害車を運行して惹起した本件事故による損害につき、自賠法第三条により運行供用者として、損害賠償責任を負わなければならない。

三  (損害)

1  治療費 金一二万三、五七〇円

成立に争いがない甲第三、四号証を総合すれば、原告は、治療費として、野原外科医院に対し合計金一二万三、五七〇円を支払い、同額の損害を蒙つたことが認められる。

2  付添看護費 金六万二、〇〇〇円

前記一(事故の発生)の項で認定した原告の本件受傷の部位、程度と成立に争いがない甲第二、三号証(ただし甲第二号証中後記信用しない部分を除く)、原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、昭和四八年一月三日より同年二月二日までの三一日間野原外科医院に入院し、その間家族の付添看護を受けたことが推認でき、その費用は、金六万二、〇〇〇円(2,000円×31日=62,000円)をもつて相当とし、原告は、同額の損害を蒙つたものと認める。

3  雑費 金一万五、五〇〇円

前記認定の受傷の部位、程度ならびに本件全証拠によつて顕れた諸事情を総合すれば、原告が入院加療中に要した雑費は、金一万五、五〇〇円(500円×31日=15,500円)をもつて相当とするので、原告は、同額の損害を蒙つたものと認める。

4  逸失利益 金三四七万一、〇一七円

成立に争いがない甲第八、九号証、証人新垣隆司の証言、原告本人尋問の結果および同尋問の結果により真正に成立したことが認められる甲第五号証を総合すると、原告は、本件事故当時、石工を本業、農業を副業として、一月平均金八万九、六〇〇円の収入を得ていたが、本件受傷により頭痛、記憶力障害、筋力低下等の後遺症を残し、そのため本件受傷後は、本業の石工を止め、時々家族が営む農業の手伝をする程度に至つたことが認められ、乙第一、二号証も右認定を左右するに足りない。従つて、原告の右後遺症は、自賠責後遺障害等級表第七級に該当し、労働能力喪失率五六パーセント、継続期間八年間と認めるのを相当とするので、これをホフマン方式により中間利息を控除すると、本件事故時の現価は金三四七万一、〇一七円(1055,200円…年収×56/100…労働能力喪失率×5,874…係数=3,471,017円)となり、原告は、同額の損害を蒙つたものと認める。

5  慰藉料 金三〇〇万円

前認定のとおり、原告は、本件事故により重傷を負い、長期間に亘り入通院による治療を余儀なくされたことおよび今なお前記の後遺症にさいなまれていることなどを合せ考えると、その精神的苦痛は多大であると思料される。よつて、諸般の事情を考慮し、その苦痛を慰藉するには金三〇〇万円をもつて当てるのが相当である。

6  過失相殺による額 金二九九万〇、三〇〇円

成立に争いがない甲第六号証及び原告本人尋問の結果を総合すれば、本件事故は、被告城間の前記過失に基因するのみでなく、原告においても、本件事故発生前に、加害車が後方から接近して来ることを容易に認識しえた筈であつたのに、これを怠つて漫然と歩行していた過失が認められ、従つて、原告の右過失が本件事故の一因をなしているものというべく、その割合は被告城間八に対し原告二とするのが相当である。よつて、前記損害合計金六六七万二、〇八七円を右の割合で過失相殺すると、被告らに賠償せしめるべき金額は金五三三万七、六七〇円となる。

7  損害の填補 金五〇万円

原告は、本件受傷により自賠責保険の保険金五〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから、前記のとおり、被告らに賠償せしめるべき金五三三万七、六七〇円から右金五〇万円を控除すると、その額は金四八三万七、六七〇円となる。

8  弁護士費用 金五〇万円

被告らが、以上認定にかかる損害金を任意に弁済しないことは、弁論の全趣旨により明らかであり、本件記録によれば、原告は、その訴訟代理人である弁護士に本訴提起とその追行を委任したことが認められるところ、本件事案の内容その他一切の事情を勘案すると、弁護士費用として、金五〇万円をもつて、本件事故と相当因果関係にある損害と見るのが相当である。

四  (結論)

そうすると、原告の被告ら各自に対する請求中前記7、8項の合計金五三三万七、六七〇円および前項の弁護士費用を除いた内金四八三万七、六七〇円に対する本件不法行為の日の翌日である昭和四八年一月一日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由がある。

よつて、原告の本訴請求は、右の限度で正当として認容し、その余は、理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 喜屋武長芳)

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